10年くらい前、音楽ソフトを買うとなると自分の場合はレコードであり、大多数の人たちはCDを購入していた。自分がハイティーンの頃には第二次DJブームみたいのが有って、たくさんの若者がターンテーブルとミキサーをゲットし、クラブなり、家なりでレコードをスピンしていた。そんな時代。

 

2012年現在においてはレコードというのは一部のマニアックな人たちが収集する物となっており、かつてDJを表現するのにおじさん達はヘッドフォンを耳に当てレコードをスクラッチするしぐさで「あれかい?あれかい?」てな具合だったのだが、今やDJもデジタル時代となりセラートだのなんだのよくわからん最新鋭機器とコンピューターでDJをするようになってしまった。おじさん達は今後DJをどういったジェスチャーで表現するのだろうか?

 

自分は今でも大のレコード派なのだが、このたび生まれて初めてデジタル配信で音楽をリリースする、ということに関わって少々複雑な気持ちだったりする。本当はレコードをやりたい、のだけど。

 

まあとりあえずレコードは音が良いのである。CDよりも音が良いと思っている。もちろん再生機器にある程度のこだわりを発揮しなくてはならないし、アームやカートリッジの調整などなど手間がかかる物なのであるが。それにしてもゆっくり音楽を聴きながら酒など飲もう、となるとやはりレコードでなくてはならない。レコードちゅうのは回転ムラがあってそういったファジーな要素が人間を安心させるのでは無いか、と思っている。

 

また、音楽メディアで最も長持ちするのもレコードである。CDはそれなりに長持ちするが、1980年代のCD普及期のCDというのは現在きちんと再生することは困難なのではなかろうか。MP3などのデジタルデータはPCの故障と共に消えゆく運命の為、おそらくより寿命が短いのではないだろうかと思う。

 

レコードが長く持つ、というのは大体にして収集しているのがマニヤ、という事もあり大切にされている事と、非常に原始的な構造である事と、塩化ビニールで出来ているのだが針先の何トンにもなる圧力にも耐えうる驚異的な頑丈さ、などなど様々な要素がある。いまだに1960年代から封を切られていないレコードなどたまに出てくる、などといった男のロマンも満載だ。

 

昔「レコードをリリースする」という行為は非常にリスキー、なんというか尋常では無い行為だったのだが、過去に比べて現在はよりその傾向が強いかもしれない。なんといってもプレス会社が減少しているし、MP3やCDで作品をリリースするよりもとてもコストがかかってしまう。アンダーグラウンドなインディーズレーベルが金持ちな筈はごく少数の例外を除いて間違いないはずなので、やはりレコード作品を作る、というのはとんでもなくロマンチックだ。ちなみに現在レコードプレスをしているのは主にドイツが中心だと思う。日本国内では東洋化生がやっているが高い。海外でプレスすると送料があほみたいにかかるのでやはりレコードをリリースする、というのは非常に大変だ。だからこそ出来に満足した作品であればやりたいのだけれども。

 

こう書くとなんとなく自分はデジタルメディア反対派のように思えてくるが別にそうでもない。自分はレコード派なだけであってMP3を一切聞かない、という事なんてないし、いろんなミュージシャンが以前よりも参入しやすくなるだろうし、また新しいフォーマットと新しいハード機で新しい人間と音楽との関係性が生まれるかもしれないし、そういった事に否定的な気持ちはあんまり無いのである。

 

世間ではエコエコ言われて久しいが、音楽メディアで最もエコなのはデジタル配信である。ごみにならない。いらないならゴミ箱にドラァッグアンドォードロォォォォゥップしてしまい「ゴミ箱を空に」をクリックすればOKだ。やっちまえ。

 

詰まるところデジタル音楽配信のデメリットとして、生産者が多ければ多いほど商売としては困難になる可能性が高い。過去ほど音楽をリリースする、という行為にリスクが無いのである。CDやレコードというのは在庫が有って初めて販売する事が出来るのだが、デジタル配信は在庫を必要としない。金銭的には非常にリスクが低い。

 

ただやっぱり音楽自体が良いか・悪いか、という話なのでミュージシャンはフォーマットだの時代の流れだのそんなもんにフラフラしてはいけない、のだと思う。