音楽制作とコンピューターの進化について
実は一度環境ができてしまうとPCに新しいソフトウェアを導入しようとは全然感じないタイプだ。長い事決まりきっている物を使っているし、パラメーターやなんやらかんやら、それは長い付き合いでこうすればこうなる、みたいな職人的領域で安心感があるからなのだけど。
機材も思えば音楽を作り出した時は何やらかにやら買い集めていたが、だいぶ落ち着いてきてさほど物欲が無い。それにやはり道具を使いこなすことはそれはそれで買う事よりも大変な事だと思うし。正直10年レベルで付き合っているシンセでもいまだ発見があるくらいだ。
最近古いPCが余りにも調子悪いので新しいマシンを購入した。基本は使い慣れたアプリケーションを導入するのだけど、どうもホストアプリの新しいバージョンにおまけでついてきたソフトシンセの類などがかなり刷新されていてびっくり。
なんかこういう音を作るのって昔なら苦労して頑張ってやっていたなー、と思った。
たとえばエレクトロニカや電子音響の世界では「グリッチ」なんて物があるのだけど、それはもともとOVALって人がCDに傷をつけて再生していた、って奴で、2000年くらいからヨーロッパのアーティストたちはこぞって「ギギギー・チチチー・カカカー」という断続的につらなるノイジーな音色を使っていたのだが、あれらを再現するためにすでに出来物のプリセットなどは当時無く、それが10年も経過するとホストアプリに含まれるソフトシンセやドラムマシンなどにプリセットですでに入ってる。
当時AUTHECAとか聞いてなんかびっくりしたわー、というガキは結構いたと思うのだけど、なんていうか当時はそういう新しくて謎に満ちていたさまざまなテクニックも、やはり10年もたつと常識と化していて、どうもそういった技法を人力で、今ではとんでもなく非効率的にこなしていたことを思い出すとプリセットの音色に笑えてきた。
そもそもネタが割れないようになんとか頑張る、というのは意地でもあってもしかしたら多少オリジナリティや非常にあいまいな精神みたいなものを伝えるのに一役買うように思っているので多分自分はそのまんまそれらの音色を使うことはないだろう。
年々ソフトシンセを見直してはいるが、所有しているハード機もあるし。
おそらくプリセットの類は効率的に業務として音楽制作にとりくまなくてはならない商業音楽の制作の為に用意されているのであろう。
とりあえず最近のソフトシンセなどの音色は非常にトリッキーな物も満載だ。自分としては個人的には昔ながらのハード機みたいなデザインで音も昔ながらのハード機に似たようなのがいい。正直最近のソフトシンセのパラメーターは理解に苦しむ事が多いし、コントロールできないパラメーターがあるシンセなんて使ったってろくな事が無い。
昨今のPCはありえないくらい処理能力が高いので複雑化している部分も多いのではないだろうか。その恩恵として複雑な音色を簡単に、っていう発想なのかもしれない。実際のところあそこまで作りこまれたプリセットなどが大量に入っていて、それらを使って音楽を作るというのは音楽を作らされてる、ないし作らせてもらっている、いや、恐れ多い、音楽を作らせて頂いている、みたいな気持ちになっちゃいそうなのでコンピューターで音楽を作る、という行為に道具に対するサディスティック な裏切りが常に必要だと思う。じゃないと表現なんて出来ないような気がする。
そのあたりの作らせて貰ってるコンプレックスと決別する為、今更な感じ満載だけどMAX/MSPを習得してみたいな、なんて思ってる今日この頃。でも一番大切なのは精神、できまりだな。